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「笙子と潤子」 綾川 雪美 3,笙子と潤子

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3,笙子と潤子

 梅雨前線も通り過ぎ、ようやく長い長い夏休みの幕開けとなった。そんな八月の土曜日、笙子は駅の出口に人待ち顔で立っていた。
 それもそのはず、今日はこれから潤子と買い物をする約束をしているのである。
 具体的な店は決めていない。ただ、大学の最寄り駅より一つ先にあるこの駅の周辺には、雑貨屋が多く集まっている。だから大概雑貨屋めぐりでもするのだろう、と笙子はそう思っていた。
「ごめん、遅くなっちゃった。」
 と言って潤子が到着したのは待ち合わせ時間ちょうどのころだった。
 歩き出すなり、潤子は
「今日は暑いねえ。」
 を何回も繰り返した。バッグから扇子を取り出ししきりに顔を扇いでいるのを見て、笙子は訊いた。
「もしかして、暑いの弱い?」
「うん、弱いよー。」
 潤子は即答する。
「ただ暑いっていうだけならいいんだけどね、こう、汗で肌がべとべとするのが気持ち悪いのよ。」
「ふーん、汗ねえ。」
 雨でポンチョがびしょびしょになることは気にならないのだろうか。
「笙子は暑いの好きそうだよね。」
「もちろん。なにしろ夏は晴れの日が多いしね。」
 元気よく答えていた笙子は、小さい声で「あ、でも夕立だけはダメだけど。」と付け加えた。こめかみに垂れてきた髪をかきあげながら潤子が笑う。
「そうだと思った。」
 頭上から灼熱の太陽が地面を焦がすようにして照りつけていた。
 ここ一週間、ずっとこんな調子である。そして、この天気はもうしばらく続くだろう、とテレビの天気予報士が今朝言っていた。
 笙子にとってはこれ以上ない素晴らしい天気だが、正反対の天気が好きな潤子はどうなのだろう、とちょっと意地の悪い笑みが笙子の顔に浮かんだ。
「潤子は、これからが憂鬱な季節でしょう。」
「お生憎様。私、晴れも大好きなの。」
 晴天に似つかわしい、爽やかな笑顔で応酬してきた潤子である。笙子はがっかりした。
「あっそ。両方好きな人は良いね、いつも気分が上々で。」
「何言ってるの。その代わり私はあんまり暑いのは好きじゃないもん。・・・・・・大丈夫、笙子もいつか雨が嫌いじゃなくなる時が来るから!」
 なんという根拠のない励ましだろうかと、笙子は思わず不審の目を潤子に向けた。
 しかし、その視線にも一向にひるむ様子のない彼女は、自信満々に言った。
「大丈夫、私が手伝ってあげるから!」


 かくして笙子が連れてこられたのは、看板に『ジュビア』と書かれた一軒の店である。
 れんが造りのおしゃれな外観の店だったが、店内にさまざまな傘がずらりと並べられているのをガラス越しに見た笙子は後ずさりをした。
 今日は雑貨屋めぐりではなかったのか。いや、それどころかそもそも、今日の買い物自体が、雨嫌いの自分を傘専門店に連れてこようという潤子の計画だったのか。
「いや、あの、潤子。あたし傘ならもう何本も持ってるんだけど・・・。」
「傘なら、でしょ? このお店はね、一見傘だけしか売っていないようだけど、実は他の雨具もたくさん売ってるんだよ。しかもデザインが豊富なの。だからここなら、笙子のレインコーディネートの参考になるかなぁって思って。」
「・・・レインコーディネート、ねぇ。」
 口に出してみると、途端にくすぐったい気持ちになった。 “レインコーディネート”という言葉が、自分とはかけ離れていると思う一方で、とても潤子らしい用語だと思った。
「でも、形から入ると転びやすいって言わない?」
「え、そうかなぁ? 今流行りの山ガールだって、服をコーディネートするところから始めてるよ?」
「・・・確かに。」
 山に入るために機能的かつファッショナブルな登山用品を身につける山ガールがいるならば、雨の中を行くために雨具をコーディネートするのは理に適ったことである。山ガールに対してこちらは雨ガール、というところだろうか。
(そういうことなら、潤子は生粋の雨ガールだよね。・・・じゃああたしは、にわか雨ガールになるってことか。)
 例えにわかだとしても、はたして自分は雨ガールになれるかどうか。
「ほら、とにかく中に入ろう!」
 潤子の声に背を押されて店の扉を開くと、ドアベルが軽やかに鳴った。中からひんやりとした空気が流れ込んでくる。
「いらっしゃいませ。・・・あら!」
 こちら側を見た女性の店員は軽く目を見開いた。その様子に笙子が怪訝な顔をしていると、店員は親しげに話しかけてきた。
「お客様、お久しぶりです! お元気でしたか?」
 それに返事をしたのは潤子である。
「おひさしぶりです! おかげさまで相変わらず幸せな傘ライフを送っています〜。」
「それはなによりです。この頃ご来店がなかったので、どうしたのかと思っていたんですよ。元気そうで良かったです。」
「いやー、心配かけてすいません。ここ最近学校の方が忙しくて、なかなか立ち寄れなかったんですよ。」
「そうだったんですか、お疲れさまです。・・・あ、そちらの方はご友人ですか?」
 しばし蚊帳の外の気分を味わっていた笙子は、店員に視線を向けられて会釈した。潤子が満面の笑顔で言う。
「はい、そうです! 実は彼女、雨嫌いなので、少しでも雨を好きになってもらおうと思って、今日一緒に来たんです。ね、笙子。」
「まあ、うん。」
 笙子は曖昧に頷いた。
「そうなんですか! うちにも雨が嫌いだというお客様が結構いらっしゃいますよ。でも、逆に嫌な天気だからこそ、レイングッズにこだわりたいっておっしゃって、買っていかれるんです。」
「へぇ、そういうものですか。」
 笙子が相づちを返すと、店員は意気込んだ口調で続けた。
「自分の気に入ったレイングッズがあれば、雨もそんなに悪いものじゃないですよ。というのは、雨が好きな私の意見に過ぎないかもしれませんけど。」
 そこで店員は潤子を見て微笑んだ。
「そちらに雨のプロもいることですし、せっかくですからゆっくり見ていってください。」
「何言ってるんですか、川瀬さんこそ本物のプロじゃないですか!」
「そんな、雨への情熱にかけては私はまだまだですよ〜。」
「またまた、おだてても駄目ですよ!」
 と言いながらも嬉しそうにしている潤子である。
 それにしても、雨具専門店の店員から「雨のプロ」と評される潤子の存在やいかに―――、彼女に対して一種の畏敬の念を抱かずにはいられない笙子であった。
 にこやかに店員が去っていったあと、笙子は隣にいる潤子に尋ねた。
「ねえ、潤子ってこの店の常連なの?」
「んー、常連というか行きつけというか。」
「一体、どのくらいのペースで来てるのよ?」
 追求すると、彼女は「ちょっと待って。」と指を折りながら、
「せいぜい週に一日か二日かな?」
 と言った。
「ええっ、そんなに!? まさかその都度買って・・・」
「いるわけないじゃない。私貧乏学生だし。目の保養だよ、目の保養。」
「・・・・・・。」
 さすがは雨のプロ、目の保養の仕方も常人とは一味違う。
「ここ、大学の定期券内だから立ち寄りやすいの。しかも川瀬さん―――あ、さっきの店員さんとね、話が合ってすごく楽しいんだよ。」
 しゃべりながら、うきうきと潤子は店内を案内してくれた。
 店は面積こそあまり広くないが二階まであって、一階が傘売り場、二階はその他レイングッズ売り場となっていた。二階のフロアには、レインコートや雨靴を中心にありとあらゆるレイングッズが陳列している。明るい赤のギンガムチェックのレインコート、シンプルなカーキ色のレインブーツ、渋い緑の雨合羽。二人はああでもないこうでもない、これがいいあれもいいと、めいめい好き勝手な意見を言いながら見てまわった。
 その中でとりわけ笙子の目に留まったのは、深い藍色を背景にして、雛芥子に似た可憐な花が舞うように描かれている柄のレインコートだった。
(わぁ・・・、これ、可愛い!)
 これなら買ってもいいかもしれない。純粋にそう思った。
 レインコートを体の前に持ってきて、そばにあった鏡をのぞきこむ。そのとき、ひらりと鏡越しに値札が見えた。
 そういえばまだ値段を見ていなかったことに気付いて、笙子はレインコートに付いている値札に目を落とす。そこに記されてあった値段は、彼女にとって衝撃的なものだった。
「まさかの、5500円・・・・・・。」
 ―――デザインは可愛いが、値段はまったく可愛くなかった。
 からっぽになる自分の財布を想像し頭を抱えていると、他のところを見ていた潤子がそばに寄ってきた。
「あ、やっとめぼしいものが見つかったの?」
「見つかったんだけど高いんだよー。」
 ぼやいて値札を潤子に見せると、彼女は小首をかしげた。
「え? 普通じゃない? というか、もっと高いものなんていっぱいあるよ。例えばね・・・、」
「わ、待って待って! もう分かったから大丈夫!」
 もっと高いものを持ってこようとする潤子をあわてて止める。
 レインコートがここまで値がするものだったとは・・・甘く見ていた。ものごとを杓子定規で考えてはいけない、と笙子はしみじみ思った。
(それにしても、もし買うなら財布が痛いな・・・。)
「買うか買わないかは別として、とりあえず試着だけしてみたら?」
 なぐさめるように潤子が言う。
「試着室なんてあるの?」
「ほら、あそこ。」
 潤子の指先をたどると、たしかにそこには茶色のカーテンが引かれた試着室らしきものがある。そのとなりの壁には張り紙があって、近寄って見てみると、『試着されるお客様は店員にお声をおかけください。』と書いてあった。
 きょろきょろと周りを見渡したが、どうやら店員はいないようである。
「私、一階に行って川瀬さんに言ってくるね!」
 言うがはやいか潤子はさっと笙子の手からレインコートを受け取って、一階に飛んでいった。と思っていたらあっという間に戻ってきた。
「大丈夫だって。」
「あ、ありがとう。」
 笑顔で渡されたレインコートを受け取り、笙子は試着室のカーテンにおそるおそる手をかけた。
 羽織ったレインコートは、値段がするだけあってしっかりとした造りになっていた。前身頃の着脱部分には、レインコートにありがちなプラスチックスナップではなく、ファスナーが使われている。高いデザイン性も手伝って、普通のスプリングコートを着ているような感覚だった。
「一応着てみたんだけど。」
 外で待っている潤子に声をかけて、カーテンを開いたとたん、
「わあ、可愛い! すっごく似合うじゃない!」
 潤子のはずんだ声でむかえられた。
「・・・そうかな。」
「うん、ちゃんと様になってるよ!」
 太鼓判を押され、笙子は少しはにかんだ。それをごまかすように、
「あたし、着替えるね。」とそそくさと試着室のカーテンを閉めた。
 レインコートを脱ごうとした笙子は、ふと鏡を見た。そこには見慣れない衣をまとった自分の姿が映っている。
(レインコートなんて、着たの何年ぶりだろう。)
 たしか小さい頃は、雨が降るたびに母親に着せられていた。その後、中学、高校に上がるにつれ、学校の旅行の持ち物に指定される場合はあったが、それ以外でレインコートを着ることはなくなった。そして大学生になると、その存在すら忘れるようになった。
 そう、傘と違って、レインコートがなくても生活に支障はきたさない。だからいままで存在を忘れていたし、自分で買おうと思ったこともなかったのだ。
 持っているのは、いつかの日に親が買ってきた地味な紺色のレインコートだけ。それももう長いあいだ箪笥(たんす)の奥で眠り続けている。
 初めて自分で選んだレインコート。様になっている、と潤子は言ってくれたけれど、本当に着こなせているのか自分ではよく分からない。
(・・・だけど。)
 こういうものも悪くない。笙子は鏡の中の自分に微笑みかけた。


 試着室から出た笙子は、レインコートを買うことを潤子に伝え、一階にあるレジに向かった。
「これからは、少しは雨の日が楽しくなるといいですね。」
 レインコートの入った袋を渡しながら、店員の川瀬さんが言う。
「そうですね。まあ、なにしろ雨嫌いに関してはキャリアが長いので、なかなか道のりは険しいとは思いますが。」
「それを言うなら、私も雨好きのキャリアが長いよ〜。」
 隣にいる潤子がおもしろそうに口をはさむ。すると川瀬さんも、
「そういえば私も、子どもの時から雨が好きでしたよ。」
 と言うので、笙子は頬を膨らませてみせた。
「悪かったですね、どうせ私は雨が嫌いですよ。」
 雨好きな二人は一瞬顔を見合わせてから、おかしそうに笑い出した。
「ごめんごめん、別に全然悪くないよ。ただ笙子の言い方がおもしろかっただけで。」
「すみません、つい調子に乗ってしまいました。」
 潤子はともかくとして、川瀬さんが頭を下げて謝ってきたので、笙子はあわてた。
「いえ! まったく気にしていないんで大丈夫です。」
「それなら良いんですが・・・。」
「まあ何はともあれ、笙子もようやく一歩を踏み出したってことで、良かったじゃない。」
 潤子が話をまとめる。それに同調して川瀬さんが言った。
「本当に私もそう思います。なにより、お客様がうちの商品を買われることによって雨が苦でなくなるときが、雨具専門店の店員として冥利に尽きますから。」
「川瀬さん、素晴らしい台詞・・・・・・。」
 潤子が感極まった様子で小さく拍手する。
「そんな、私は店員として当たり前のことを言っただけです。」
 川瀬さんはほんのりと頬を染めて笑った。それから笙子の方を見て、
「また遊びにきてくださいね。お待ちしています。」
 と言って、見送ってくれた。

「そういえば、雨の日にジュビアに行くと全商品が一割引になるのよね〜。」
 店を出たあと、ぶらぶらと通りを歩きながら潤子が言った。
 ジュビアとは、さきほどの店の名前である。
 へえ、と聞き流しかけた笙子はしかし、一割引という言葉にはっとした。
 これは聞き捨てならない。
「それを早く言ってよ! 買う前に知ってたら雨の日に出直したのに。」
「ごめんね、そんな大事なことだと思わなかったからつい忘れてて。」
 申し訳なさそうに謝られて、笙子は気勢をそがれた。
「いや、どうせ買うなら安いほうがいいなって思っただけだから、別にいいけど・・・。」
「そっか・・・、じゃあ今度からは雨の日に買いにいったほうがいいよ。」
「うん。そうする。」
 笙子は素直にうなづいた。
 これでまた笙子がジュビアに行くことが決定したのだった。
「にしても、残念だよね。せっかく笙子がレインコートを買ったっていうのに、晴れているなんて。いますぐにでも雨が降ってくれないかな。」
 潤子が口をとがらせる。空は一面の青で、雲は一つとして見当たらなかった。
「えー、いいよ雨なんて降らなくて。」
「まったく笙子ったら。買ったからにはちゃんと使ってあげなきゃレインコートに失礼だよ。―――そうだ、天気予報を調べようっと。」
 潤子はバッグから携帯を取り出して操作し始めた。
「今朝テレビで見たけど、向こう一週間晴れだって言ってたよ。」
 笙子は思い出して言った。しかし、潤子からは返事がない。再び声をかけようとしたとき、「あっ!」と驚嘆の声が彼女から上がった。
「なになに、どうしたの?」
 尋ねると、彼女は携帯の画面を見たまま重々しい口調で答えた。
「笙子さん、重大なお知らせです。」
「・・・なんでしょうか。」
 つられてこちらも敬語になる。
 今朝の天気予報のとおり晴れか、それとも・・・。
「なんと・・・、明々後日(しあさって)に雨が降るそうです!」
 目を輝かせて告げる潤子とは対照的に、
「えええ―――!」
 笙子はありったけの声で叫んだ。その声に何事かと何人かの歩行者が振り向いていく。
 笙子が雨嫌いでなくなる日は、ずっと先の未来のことである。
 しかしこの時、笙子の胸の奥に小さな明かりが灯ったことに、彼女はまだ気付いていなかった。


〈おわり〉




ここまで読んでくださってありがとうございました!
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