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「笙子と潤子」 綾川 雪美  2,潤子

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2,潤子

 こちらの方向へ歩いてくるのは、笙子と同じ年頃の女の子だった。
 薄紅色に白の水玉模様のポンチョと、きれいな浅緑色の傘が視界に飛び込んでくる。
 しかし、笙子が目を引かれることになったのは、ポンチョや傘といった装いではなかった。
 その女の子はあまりにも―――そう、あまりにも楽しそうに歩いていたのだ、雨の中を。
 まるでそれが最高の喜びだと言わんばかりの様子で、弾んだ足どりで歩くその姿に、笙子は目を釘付けにされた。
(雨の日でもこんなに楽しそうにする人もいるんだ・・・。)
 悪天候でも嬉々としてはしゃいでいるのは、子どもぐらいだと思っていた。もちろん、世の中には雨好きな大人もいることは承知していたが、実際の例、しかも典型例を目にするのは初めてである。
 見ているとその女の子は、ふと傘を持っていない方の手を傘の外に伸ばした。どうやら雨が手に落ちる感触を楽しんでいるようだった。
 一連の様子を眺めていた笙子は、雨に対する自分の態度を一度考え直してみたほうがいいのではないかと不意に思った。
 いままで雨が嫌いの一言で切り捨ててきたが、自分は雨をどこまで嫌いなのだろう? 嫌いな要素は多々あるけれど、その一つ一つをとってみたらどうなのだろうか? そもそも雨の良いところは、なんだ?
 笙子は眉根を寄せて考えこんだ。いつの間にか立ち止まっていることには無意識である。
(あの人なら、雨の良いところを知っているかもしれないな。ていうか、うちの学生なのかな?)
 と、その時、当の女の子が立ち止まって、自分をじっと見ていることに笙子は気付いた。
(やばい! 絶対変な人だって思われてる!)
 心で冷や汗を流しながらもその場を逃げ出そうと、彼女から視線をそらし、そそくさと立ち去ろうとした。
 しかし、すれ違う瞬間、
「あのー・・・」
 声が聞こえて、思わず足を止めた。
「は、はい?」
 振り返ると、彼女はほっとした表情をして笙子の方に近づいてくる。
 一体何を言われるのかと、まごつきつつも身構える笙子に、彼女は言った。
「よければですけど、傘いります?」
「・・・・・・は?」
 とっさに反応できない笙子のことはお構いなしに、彼女は立て続けに訊いてくる。
「傘、持っていませんよね?」
「はぁ、まあそうですけど。」
「じゃあ、よかったらこの傘を使ってください。」
 彼女がポンチョの裾をめくると、内からバッグが姿を現した。なるほどこのようにすればバッグが濡れないのかと笙子は感心した。
 彼女はバッグの中をごそごそしてから、一本の折りたたみ傘を取り出した。今彼女がさしている、やわらかな浅緑色の傘とはまた違う、鮮やかなつつじ色の傘だった。
「今日は一日中雨みたいなので、役に立つと思います。」
 そう言って折りたたみ傘を渡そうとするので、笙子は慌てて押し返した。
「ちょっと待ってください! そんな、返せるかも分からないのに、借りられないです!」
「え? 貸すんじゃなくて、あげるつもりなんですが。」
 びっくりした顔をしている彼女を見て、びっくりするのはこちら側だと笙子は思った。通りすがりの人が傘をくれるなど、普通はないだろう。あってもよほど親切なおばさんかおばあさんぐらいである。
 笙子は迷った。この好意を素直に受け取るべきか否か―――、もらいたい気持ちは大きいが、こんなきれいな傘をもらうのは申し訳ない。
「いくらですか。」
 礼儀としてのつもりだったのだが、尋ねた瞬間、彼女は心外だという顔をした。
「私はそこまでお金に飢えていませんよ! たまたま今日かばんに入れて来た傘があげても構わないようなものだったから、あげようと思いついただけです。・・・・・・それに、もしかして青祐(せいう)の学生じゃないですか?」
 青祐大学、それは笙子の通っている大学の名前である。笙子は首肯した。
「ええ、そうです。」
「やっぱり。私もです! ちなみに、どこの学科ですか? あ、私は経営学科、三年の両羽潤子(りょうう じゅんこ)といいます。」
 人懐っこい笑顔を浮かべて潤子が言う。
「私は法学科三年で、名前は春田笙子(はるた しょうこ)といいます。」
 答えると、潤子は顔を明るくした。
「わあ、同じ学年なんだ! あの、笙子ちゃんって呼んでもいいですか?」
「別にいいですけど・・・。ていうかむしろ、笙子って呼んでくれた方がいいかな。」
「えっ、呼び捨てでいいんですか?」
「はい。あたしはそっちの方が好きだから。」
「じゃあ、遠慮なく笙子って呼ぶことにするね。私のことも潤子でいいよ!」
 潤子のあっさりした言いかたが心地よく感じた。
 

 成り行き上、潤子と連れ立って再び大学へ向かうことになった。
 つつじ色の折りたたみ傘は、ありがたく頂戴することにした。潤子によれば、その傘を買ったのはかなり昔のことで、使うことがないまま最近まで存在を忘れていたのだという。だから、もらわれた方がその傘も喜ぶと彼女は言った。彼女曰く、袖すり合うも多生の縁。分かるような、分からないような気分になった笙子であった。
 大通りだけあって、歩道の幅はたっぷりととられており、二人は並んで歩いた。
 少しずつ会話をするうちに、潤子も自分と同じく人身事故が原因で遅れたのだとわかった。それにしても、授業に遅れているというのに潤子は急ぐ様子がまるでない。ゆっくりと味わうように歩いている。
 そのことについて聞くと、
「だってせっかく雨がいい感じに降っているのに、急ぐなんてもったいないじゃない。それに、笙子だって人のこと言えないでしょ。・・・・・・あれ? そういえば、なんで会ったとき駅の方に歩いてたの?」
「そりゃあ・・・」
 さっきまでの暗い気持ちがよみがえってきた笙子は顔をしかめた。
「あたし、傘を電車の中に忘れたの。それでもう濡れてまで学校行くことないなって思ったから、引き返したところだったんだ。」
 沈んだ口調で言う笙子を、潤子は目をみはって見つめた。
「そんなに雨が嫌いなの?」
 その問いに迷いなく頷く。
「うん、嫌い。だけど・・・」
 一旦口をつぐんでから、迷うように笙子は口を開いた。
「あたし、潤子を見て、あんなに雨の中を楽しそうに歩ける人もいるんだってびっくりした。・・・・・・だから、どうやったら雨を好きになれるか、あたしに教えてくれない?」
「ええっ。急に言われてもなぁ。」
 潤子は難しい顔をする。
「潤子は、雨が大好きだよね?」
 尋ねると、彼女は強く頷いた。
「確かに私は雨が好き。―――でも、その代わり私は雨の厭なところがよく分からないの。だって、傘とかポンチョとかレインブーツとかがあれば、雨に濡れるってこともそんなにないわけだし。」
「雨の日って、気分が暗くならない?」
「私は、雨は晴れの前触れだと思ってるよ。雨が降った後の空はすごく透きとおっていて綺麗だし、運が良ければ虹も見られるし。」
 なるほど、と笙子はうなった。
「つまり、反対に考えていけば良い点が見つかるってことか・・・。あたしは作物とダムぐらいしか見つけられなかったよ。」
 真面目な話をしているのに、なぜか潤子が笑い出した。
「作物とダム・・・・・・なんかちょっとズレてる気がする。確かに必要不可欠だし、良いところと言えば良いところだけど。」
 実に楽しげにしていた彼女は、ふっと笑いを納めた。
「ねえ、ふと疑問に思ったんだけど。そんなに雨が嫌いなら、どうして駅前のコンビニとかで傘を買わなかったの?」
 無邪気に尋ねられて、笙子の頭はつかの間真っ白になった。一拍おいてから、思わず叫ぶ。
「あああっ! すっかり忘れてた! あの時すごくイライラしてたから・・・・・・あちゃー。」
 なぜコンビニの存在を忘れていたのだろう。笙子は過去の自分を殴りたくなった。
 その様子に潤子はくすくすと笑いながら、
「だいじょうぶ。とっても良い方法があるの。今度から、長い傘とは別にかばんの中に折りたたみ傘を入れておけばいいの。ねっ、名案でしょ?」
「名案って・・・。それって普通の傘と折りたたみ傘、両方持って出かけるってこと?そんなのばかばかしくない?」
 あきれた目をした笙子だったが、
「え? それが私の標準装備なんだけど。」
 その言葉を聞いてはっとした。はやくも手に馴染み始めている傘の中棒から視線を上にあげていくと、鮮やかなつつじ色と目が合った。
(そうだった・・・。そのお陰で現にあたしはこうして助けられているんだった・・・。)
 笙子はあらためて潤子をまじまじと見た。
「なんで、傘を二本も持ち歩いているの?」
「趣味だから。」
 さらりと彼女は言った。
「趣味って―――傘を持ち歩くことが?」
 意味をうまく呑み込めず、尋ねると彼女は首をふった。
「ううん、持ち歩くんじゃなくて、使うことが趣味なの。私、雨と同じくらい傘も好きだから。」
 そして潤子は、自分の趣味について話しはじめた。


 潤子の趣味は、気に入った雨具を買い集めて、それを雨の日に身につけ散歩することだった。雨と雨具どちらが最初に好きになったかは、鶏が先か卵が先かの問題に等しいので、潤子は完全に考えることを放棄していた。というよりも、考えたことがなかった。
 雨具の中でも、潤子は特に雨傘を集めることが好きだった。といっても、その時々の懐具合もあるので、集めるペースは遅かった。
 だんだんと傘が増えてきたある日、潤子は思った。
(こんなに集めているのに、一度に一本しか使わないのはもったいないなぁ。ただでさえ雨が降るときは限られているのに。)
 コレクションではなく、あくまで実用目的で買い集めている彼女だからこその思いだった。
 そして考えた。いっそ何本も持ち歩いて、傘を開くときの気分次第で使い分ければいいのではないか、と。
 傘を複数持ち歩く習慣ができたのはそれからだった。
 潤子は、雨の日は長い傘と折りたたみ傘を一本ずつ、これから雨が降るという日には折りたたみ傘を二本、そして降水確率0%の快晴の日でさえも、必ず傘をかばんの中に入れて出かけていく。
 本好きな人がどこにいくでも何冊も本を持ち歩くように、飴好きな人が何種類もの飴玉をかばんに忍ばせているように、潤子は傘を持ち歩いていた。
 たとえ傘を使わない日でも、かばんの中に傘が入っているのをみるだけで心が和んだ。
 このように彼女の雨傘ライフは、非常に充実していた。


「へー、そういうことだったのか。」
 話を聞き終えた笙子は、感心と呆れが混じりあったようなため息をついた。
 雨嫌いの自分の立場からすると到底考えられないような趣味に、軽いカルチャーショックを受けていた。おそらく自分は、日傘でも集める気にはならないだろう。 
「もうさ、いっそのこと将来、傘で起業しちゃったら?」
 冗談で言ったつもりなのに、
「そうね。それはすごく良い考えね。大学で経営学も学んでいることだし。」
 大真面目に答える潤子がなんだか微笑ましくて、笙子は笑みをこぼした。
 ちょうど、大学の門が近づいてきたところだった。
 雨は相変わらず降りしきっていて、空を仰ぐと、一面の鉛色が笙子を迎えた。けれども笙子の心は、それを見ても曇ることなく晴れ渡ったままだった。そのことに笙子自身が驚いた。
 大学の門を通り過ぎたとき、潤子がゆっくりと口を開いた。
「ねえ、よかったらメアドと電話番号を教えてくれない?」
 それが、笙子と潤子、二人の長い友人関係の始まりだった。

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